交通事故レポート・1・続き





 バンパーに足を払われて、私は、ボンネットの上でワンバウンドした。
 ちょうど車の進行方向をむいてボンネットの上に腰かけるような体勢だったが、上体をひねって背後で手をついたため、フロントガラスごしに運転者と対面した。
 そのあと、前方の地面に投げ出された私は、両足で力強く着地した。ようやくブレーキがきいて車が止まったので、再度はねられることなく、おかげさまで今日まで生きている。
 あとになって、「そのとき転倒しなかった」と言うと、たいてい驚かれる。
 だが、人に驚かれるのを見て遅ればせに自分も驚いたくらいで、そのときはそれどころではない。 振り返れば停車した車のボンネットのすごいヘコミが目に入り、私は狼狽した。

「ど、どうしよう、車こわしちゃった……。」

 すると、私以上に狼狽した運転者が、まっさおになって車からとびだして来て叫んだ。

「大丈夫ですか?!おばさん!!大丈夫ですか?!」

 だが、私は先方の車の被害に気をとられて茫然としていた。運転者はどうやらそのことに気づいたらしい。
「車は大丈夫ですから! 体の方は大丈夫なんですか?!」
「ああ、はいはい。」私は、数歩歩いてみた。「歩けるから足は折れてないみたいです。」
「はあ。じゃあ、まず病院へ……この車でいいですか?」
 とっさに私は、別の車で病院へ向かって相手にドロンされる可能性と、その車に乗って行って証拠隠滅に始末される可能性を、天秤にかけた。
「じゃあ、お願いします。」
 私は、マウンテンバイクを道の端に寄せて鍵をかけ、ライトを取り外した。 取り外しのきく自転車のライトというものは、駐輪時にそのままにしておくと、必ず盗まれるものなのである。
 私たちは、ボンネットのへこんだ車に乗って、病院へ向かった。


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