俺は女だ!・14


引率



豪雨の日のことだ。
鈍行列車で帰宅する途中、列車が止まった。
線路が冠水して、復旧の目途がたたないという。
これが特急なら代替バスが出たりするはずなのだが、鈍行なのでそのような措置はない。
そして、鈍行なので、ここで降ろされても払い戻しはしてもらえない。

今晩はもう列車に泊まって、翌朝動き出すのを待とう、と思っていたら、同じ町内に住むおばあさんに
「センセ、センセ!」
と、声をかけられた。
(※小さい町なので、ガッコのセンセは町民みんなのセンセなんである。)
このとき同じ列車に乗り合わせた乗客4名(うち3名がおばあさん)が全員同じ町内の人間だったんで、もう○○自動車さん(同町内の自動車や貸切バスを扱ってる業者さん)を呼んで割り勘しませんか、という提案だった。

たしかに、四十路で気楽な独り者で特別頑丈なワタクシならともかく、おばあさんたちは車中泊というわけにはいくまい。
しかも、そのうちの1人は、すぐに帰宅するはずだったから持病の薬を持ってきていないとおっしゃり、さらにもう1人はおうちで待っているおじいさんの健康状態が不安だということで気もそぞろなご様子である。

ワタクシがメンバー中一番若年だし、おばあさんたちは携帯電話を持っていないので、○○自動車さんに連絡を取った。

「あ〜、○○さんですか。お世話になっております、幾狭です。今、××駅で列車が停まって足止めくらってます。同じ町内の人4名です。迎えに来ていただけますか?」
○○自動車さんは、町から160km離れた市に出張に行ってて、もうすぐ帰り着く頃だったそうだが、折り返しこちらに向かってくれることになった。

しばらくして、駅舎の外に出ていたおばあさんたちの1人が、待合室にいたワタクシを呼びに来た。
出ると、○○自動車のおじさんとおばあさんたちが親しげに話しながら、車の前でワタクシが来るのを待っていた。
なんで乗らないで待ってるのかな? と思ったら、○○自動車のおじさんがワタクシに、
「センセと一緒に乗る3名様って、こちらの方々でよかったですか?」
と、わざわざ確認してきた。
「いや、幾狭センセから電話来たって聞いたから、他の3名はセートさんかと思って。」

おばあさん曰く、
「トウのたったセートばっかりで悪かったわね。」
大爆笑だった。

そんなことがあった翌々日くらいに、セートから、
「列車が止まって、おばあちゃんたちと車で帰ってきたガッコーのセンセーって、幾狭センセー?」
と、聞かれた。
件のおばあちゃんたちのうちの1人が、そのコのおばあちゃんの友達だったのだそうだ。

なぜそのコに「おばあちゃんたちと車で帰ってきたセンセー」が幾狭センセーだと特定できたのか不思議に思っていたら、そのコは言った。

「おばあちゃんの友達、センセーのこと男のセンセーだと思ってたんだって〜」


 

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